IPMにチャレンジ!

リトルファーマー  Little farmer

なぜIPM?

総合防除の基本的な考え方は、従来の化学薬剤のみの防除や天敵昆虫のみによる防除といった防除法の枠にとらわれず、物理的防除までをも含めたさまざまな防除方法の「いいところ」を組み合わせて、より安定した病害虫管理を行うことです。
前項で述べた通り、天敵による害虫防除に長所と短所があるように化学薬剤による防除や物理的防除にも同じことが言えます。
以下にそれぞれの防除法の長所と短所をまとめてみました。

 
化学薬剤 天敵昆虫・
微生物農薬
物理的防除
速効性 優れる 劣る 対象外
病害虫多発時の対応能力 優れる 劣る 対象外
残効性 劣る 優れる 優れる
抵抗性・耐性菌の発現リスク 劣る 優れる 優れる
省力性 劣る 優れる どちらともいえない
使用条件による効果の振れ 安定 不安定 安定
イメージ 悪い 良い 良い
コスト 優れる どちらともいえない どちらともいえない
安全性 優れる 優れる 優れる

速効性や害虫の多発時に効果を発揮する化学薬剤に対して、天敵などの防除法は効果の発現が遅効的という短所があります。
その反面、残効性ということになると天敵は数ヶ月間に渡り害虫を抑えることが可能です。例えばイチゴ栽培ではアブラムシを一作抑えてアブラムシに対する薬剤防除が必要なかったという事例もあります。また化学薬剤の宿命ともいえる抵抗性や耐性菌の発現の可能性も極めて低いといえます。
省力性については、薬液を調合して散布することが主流な化学薬剤に比べ、天敵昆虫は極めて簡単に処理できます。一番簡単なものでは、温室内でボトルの蓋を開けるだけという手軽さです。
これらのことは、例えばイチゴの場合、収穫作業に追われ薬剤散布ができないような春先の病害虫防除に対しての解決策になるかと考えます。

生産者の方が天敵導入に踏み切れない一番の原因が「効果の振れ」ではないかと考えます。天敵昆虫は家庭でペットを飼うようなイメージを持って導入することが必要です。
天敵の導入に際してはいくつかの注意事項があります。
一つ目に散布した薬剤の影響です。
天敵の放飼中に使える農薬もありますが、有機リン剤や合成ピレスロイド剤は長期間に渡り天敵の活動に影響を及ぼします。長いものでは3ヶ月以上の影響が確認されています。(詳しくは農薬の影響表をご覧ください)
二つ目は温度管理です。
10度以下の低温や30度以上の高温が長く続くような温度条件下では、効果的な天敵の活動は期待できません。昆虫も生き物なので活動に適した温度帯で飼う意識が必要です。この点、化学薬剤は温度条件による効果の振れは少なく使いやすいといえます。
三つ目の注意事項は天敵導入時の害虫発生量です。
天敵による害虫防除は言わば「天敵対害虫」の闘いです。駆除すべき害虫があまりにも多い場合には、天敵による防除効果が追いつかなく効果が確認できません。天敵の導入時期は「害虫の発生初期」に限ります。この点でも化学薬剤は優れた防除効果を示します。

安全性とイメージについては、天敵昆虫による害虫防除は極めて良いイメージを消費者に与えると思います。対して化学薬剤による防除は、あたかも「毒」を作物に散布している悪いイメージがあります。
実際のところはどうでしょうか?例えばイチゴで使われる「モスピラン水溶剤」はイチゴのミカンキイロアザミウマに対して2000倍、収穫前日まで使用可能、2回以内の散布ということで農薬登録が取れています。これは、例えば今日イチゴにモスピランを2000倍で散布したとして、明日には収穫した果実をそのまま食べても一生涯に渡り健康にはなんら影響しないということなのです。
実際に農薬の安全性は使用基準を遵守して使えばとても高いもので、「毒」どころか極めて安全と言えます。
ところが前述したとおり一般的な農薬のイメージはあまり良いものではありません。
作物に残留した農薬が何の問題もないことを全ての人に理解してもらうのは困難なことと思いますが、我々ができることは「使用基準を遵守して農薬を使う」ことであり、農業生産者にとってそれは最低限守るべき義務と考えます。

それぞれの欠点を補うべく、「いいところ」を組み合わせることによって安定した病害虫管理を行うのが総合防除の考え方です。
化学農薬の鋭い速効性などの切れ味を「槍」とするなら、天敵昆虫の残効性やあらかじめ住み着いて害虫を抑える効果は「楯」と言えます。これに物理的防除である防虫ネットの展張やハウス周りの除草などの「鎧」を組み合わせることによって、確実で安定した病害虫防除が実現できます。


生産者の皆さんにとって高品質の農産物を作ることは使命といえるでしょう。
しかし輸入農産物を含めた全世界的な流れの中で、高品質ということに加えて、消費者に対して何らかのPRをすることも必要と思います。産地間の競争が激化する中で総合防除を取り入れることは市場に対する強力なメッセージとなるでしょう。是非ともIPMを実践してみてください。