イチゴの新品種「章姫」

萩原先生の栽培ポイント
<章姫の栽培(基本)>

3.章姫の草勢と温度管理

 永い収穫期間の草勢は、ハウスの温度管理によってきまります。
章姫はもともと葉が垂れ下がり、葉が地面に平たく広がるのが品種特性の一つだと思いこまれてきました。たしかに下葉の摘葉が過ぎると、葉令の若い葉でも垂れ下がり易い。だが葉の垂れ下がりや、下葉が地面に平たく広がる度合いは、低温期間の温度管理の差によって、大きく支配されることがわかります。
低温管理を続ければ、葉が垂れ下がり易くなるばかりでなく、果実の肥大も劣ります。光合成に都合の良い適温域で管理を続ければ、葉はそれほど垂れ下がらないし、果実もよく肥大します。章姫の光合成に都合の良い温度は、他の品種より少し高目の、およそ25℃〜27℃位のところにあると見られています。花粉がめしべの柱頭について、花粉管を伸ばし受精するのに都合の良い温度が、およそ25℃〜26℃だといわれています。受精に都合の良い温度と、光合成に都合の良い温度とが、ほぼ同じ位のところにあるわけです。
低温管理を続ければ、葉の垂れ下がりが多くなるばかりでなく、重なり合う葉が多くなって、受光量が少なくなり、光合成によってつくられる産物量が少なくなるので、果実の肥大も着色も低下してきます。章姫に適した温度管理をすることが、大果多収の要点ですし、とくに低温期の管理が大切です。

4.苗株の芯止りを起こさせない

 イチゴは頂花房が花芽分化すると、それに次ぐ頂部の腋芽が発育し、3〜4枚の葉がついて、その頂部にまた花芽が分化する。すると再び頂部の腋芽が発育して葉をつけ、また花芽分化する。つまり腋芽が発育しては葉をつけ花芽分化する。この繰越しをして生長しているわけです。
また品種によると次々と繰越すことなく、主茎から次々とあらたな腋芽が発育して花房分化していくものもあります。
章姫は他の品種より比較的腋芽数が少なく、頂部腋芽がきわめて優勢です。だから他の品種に見られるように腋芽が多発生し、叢生することは少ない。また、よほど大苗でない限り優勢な腋芽が頂部に二芽揃うことも少ない。 こうした腋芽発生の特性をもっているから、以前、イチゴの育苗で行われたような、苗床で定植前に、チッソ栄養を著しく低下させると芯止りが発生し易い。つまり頂花房だけは花芽分化して出蕾開花するが、腋花房が発育してこない。いわゆる芯止まりです。
イチゴは葉をつくることが止まり、花をつくることへ転換したのが花芽分化です。その頃栄養条件が著しく低下していれば、正常で大きな葉はつくられていないし、腋芽の発生も退化状態になるわけです。
章姫は花芽分化が比較的順調に揃い易いので、ことさら体内チッソ栄養を低下させ、いわゆる著しい肥料切れに追い込むことは、不必要だし、かえって障害発生につながります。章姫は育苗から収穫終りまで、肥料の過不足を生ずることなく、緩やかに継続して養水分を吸収させることが大切です。
定植前におけるチッソ栄養の診断が、簡易に行われ、適否の目安を見るのに、いま広くメルクアントの試験紙が使われています。第3葉の葉柄の汁液を試験紙に浸して、硝酸態チッソの量をきわめて簡易に測定するしくみですが、目安を知るには都合がよいでしょう。定植前に50〜100PPMという色調で現わされる数値が章姫にとっては適当だと見られています。適切な方法としては、定植前に5〜6日間隔で2〜3回診断しておくと、傾向が見られて、とても都合がよいでしょう。
萩原 貞夫

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