イチゴの新品種「章姫」

萩原先生の栽培ポイント
<ビニール被覆後の管理>

4.章姫の中休み現象を見直す

 章姫は、連続的に大果が多収できる品種である。他の品種に比べれば、中休み現象を起こすことは極めて少ないが、育苗や初期管理の差によって、中休み現象が起きる場合が見られる。 そこで中休み現象を誘起し易いいくつかの条件と、その出方についてふれてみよう。

中休み現象の出方は大別して次のように分れる。
(1) 頂果房(第一果房)と第1次腋果房(第二果房)とが開く場合。
(2) 第二果房と、第二次腋果房(第三果房)とが開く場合。
(3) 第三果房と、第三次腋果房(第四果房)とが開く場合。
以上がある。

そこで花芽分化のことについては、広く知られているところであるが、中休み現象のことについて、よく理解していただくために、ここでもう一度花芽分化のことについて概観してみると、
@ 苺の花芽分化を誘起し促進するための環境条件は、いうまでもなく低温と短日であるが、どちらかといえば低温条件が強く影響しやすい。
A 低温も短日も花芽分化を誘起するのに、すれすれの条件下におかれた場合、体内のチッソ濃度の差によって影響されやすい。
B 花芽分化を誘起し促進する環境条件は、夫々の花房毎によって、その影響は異なる。
例えば第一果房が分化すれば、その後の条件がどう変っても、第二果房が引続いて分化するわけではない。影響を受ける環境条件は、花房毎別々である。
C 花芽分化を誘起し、促進する条件と、分化した花芽が発育する条件とは必ずしも同じではない。例えば低温と短日によって花芽分化は促進されるが、分化した花芽は、むしろ高温と長日条件下で、その発育が促進されるわけである。
D 第三、第四果房、あるいはそれ以降の果房についてみると、すでに花芽分化は順調に行われても、花芽の発育が抑制されてしまうことが少なくない。

そこでこうしたことを前提に、栽培上の問題と結びつけて考えてみよう。
(イ) 例えば(1)の場合、人為的な条件を与えて頂果房の花芽分化を早期に誘起し、促進しても、定植が早く、必然的に高温と長日条件下におかれれば、当然第二果房の分化は抑制され、果房間隔は開く。
(ロ) 自然条件下でも、定植が早く、定植後の体内チッソが高濃度の場合、すでに分化した第一果房の発育は促進されるが、第二果房の分化については抑制的で、分化した果房は貧弱化され易い。
(ハ) 定植が遅れた場合、すでに分化している第一果房の発育は抑制的になるが、次の第二果房の分化には促進的に作用され易い。 そのため第一、第二果房の間隔は縮小され易い。だが根の発生や伸長の良否、その後の温度管理や、光合成による同化産物の多少などが原因で、第三、第四果房に至って、中休み現象を引き起こすことがある。
(ニ) 10月下旬以降になると、徐々に降温、短日となるので、一般的な栽培条件下では、第二果房が分化した以降は、第三、第四果房ともに分化は促進されるのが普通である。 さらに章姫が他の品種に比べて優れているのは、第三、第四果房の分化が継続的に進行し易く、果房間相互の発育関係が縮小され、中休み現象が起き難いことである。
(ホ) 第三果房以降、次の果房との間隔が開く場合がある。いわば中期以降の中休み現象である。この場合は、主として光合成による同化産物の、吸引の競合によるものと考えられている。光合成による同化産物の吸引力は、花芽の発育が進行しているものほど、強い。だから光合成による同化産物の供給が少なければ少ないほど、分化はしていても花芽の発育は抑制されてしまう。 そのため花芽分化はしていても、その発育が緩慢となり、必然的に果房間の間隔が開くことにつながるわけである。
(ヘ) いうまでもなく根は大果多収を支える基本である。根の養分吸収を高め、生長を促すには、光合成による同化産物が、より多く絶えず根に分配され、送られていくことが必要である。養分吸収が、断続することなく、絶えず継続的に活発に行われることが大切である。すでに述べた通り、章姫を連続的に大果多収するためには、緩やかに絶え間なく養分、水分を吸収させることであり、それを支えているのが、葉の働きと、根の活性である。
萩原 貞夫

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