■萩原先生の栽培ポイント
<ビニール被覆後の管理>
5.章姫の晩秋から初冬の温度管理
温度管理は、章姫の持つ優れた特性を活かしながら、収量を伸ばすための重要な管理の一つである。
冬期間の低温、厳寒期における温度管理については、ことさら注意が払われているが、冬期間と同じように大切なのが、晩秋から初冬にかけての温度管理である。だがこの時期の温度管理は、比較的軽視されがちである。
この時期の特徴は、冬期とは異なり日長が次第に短くなり、外温の日変化が大きく、冬期のように安定していない。 いうまでもなく、10月下旬第二果房の分化以降初冬にかけては、花芽分化と花芽の発育、開花、結実が重なり合いながら生長発育を続けて収穫の基盤づくりをしている時期である。
すでにいくつかの資料を通じて述べた通り、以前は花芽分化に係わる事が、長い間強調されてきた。ところが大果多収をするために、もっと大切なことは、分化した花芽が花器完成されるまでの発育過程のことである。
分化した花芽が花器完成されるまでは、その時期によって差があるが、約1ヶ月以上にわたって継続的に発育しているわけである。しかも果実といわれる果托の皮層の部分、あるいは髄の部分の細胞分裂は開花直前まで続けられている。それらの様子を仮に一つの果房だけで見た場合、発育段階の進んだ蕾もあれば、発育段階初期のものなど様々である。
例えば一果房仮に15ケの花蕾があるとすれば、いわば15段階の発育層に分かれている。 それを苺の株としてみた場合、花芽分化中のもの、花器発育中のもの、開花結実中のものなど、発育過程は千差万別であると見てよい。
こうした花蕾や果実の発育段階が複雑に、しかも重厚に組み合わされながら、継続的に発育しているのが晩秋から初冬にかけての時期である。
いま静岡におけるこの時期の日長をみると、日の入りが最も早いのが11月下旬〜12月中旬である。12月末になると日の入りの遅くなったことが目立つようになる
さらに日の出をみると、最も遅いのが12月下旬〜1月中旬で、1月下旬になると日の出は徐々に早くなる。
やがて1月末頃になると、長日になってきたことが感じとられるようになる。つまり次第に降温しながら、日々の温度変化が著しく、日長が急速に短縮されてくるのが晩秋から初冬である。
すでに述べた通り、章姫の光合成に都合のよい温度は昼間25〜27℃で、30℃を越えると呼吸が旺盛となり、光合成産物の消費が次第に多くなり、葉からの蒸散量も急速に増してくる。
また28℃以上になると、蜜蜂の花への飛来は激減し、活動し難くなる。 夜温は5℃以下になると生育は停滞し、10℃以上になると茎葉の伸びが次第に助長される。
さらに雌ずいの柱頭上に受粉された花粉が、発育して受精するための発芽率の最も高いのは、25〜26℃である。以前には雌ずいや、花粉の稔性のことがかなり重要視されたこともあったが、現在では蜜蜂の利用が普遍化しているので、全く問題にはならない。
また雌ずいの稔性をみると、花によって差があり、一番花の稔性が最も高く、3〜4番花以降、花房の高次枝梗の花ほど稔性が低下するといわれてきた。だが実際面では問題にはならない。
さらに花は開花後の2〜3日間は受精率や着果率も高く、種子数も多く変らない。
このように茎葉の生長、開花結実など温度に係わる影響は極めて大きい。とりわけ生育や成熟には、夜温よりも昼間の温度が及ぼす影響が大きいと見られている。
地温については、一般的な土耕栽培では、それほど問題視されることではないが、近時、培地の高設による養液での栽培が多くなりつつあるので、根の伸長や活性と培地温のことについて、あらましを述べると、苺にとって好ましい地温は、18℃内外のところにあり、地温の重要性のことについては、すでに述べた通りである。
ここでは実用的な視点から、地温を理解しておきたい。 20℃を越え、さらに23℃以上になると根の伸長や活性は著しく劣化する。10℃以下になると伸長や活性は緩慢となり、5℃以下になると多くの場合、根の活性は停止することが多い。したがって根の活性を低下させないことが望ましく、実際栽培上では15℃に近づけることが連続的な大果、多収に必要だと見られている。
萩原 貞夫
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