IPM防除 天敵,微生物農薬,粘着シート,防虫ネットなどを効果的に組み合わせましょう 

イチゴのIPM防除(総合防除)

2010年現在、日本の農産物における生物防除が一番進んでいる作物はイチゴでしょう。
チリカブリダニが1995年に農薬登録されてから、15年の歳月をかけてイチゴの生物防除は進化を遂げてきました。

その間いくつかのポイントとなる天敵昆虫の使用方法の確立があり、それにより防除効果が安定してきました。

ポイントの一つは、アブラムシ防除のコレマンアブラバチ利用におけるバンカープラントの導入でしょう。
バンカープラントとは、天敵の餌となる昆虫を寄生させた植物を圃場に植え付け、天敵の増殖を促すやり方です。
この際重要なポイントとなるのが天敵の餌となる昆虫は、栽培している作物の害虫にはならないことで、イチゴの場合はイネ科植物にしか寄生しない「ムギクビレアブラムシ」をムギに多数寄生させたものを利用します。(写真1~3)

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写真1:アフィバンク

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写真2:イチゴ圃場に植え付けて成長したアフィバンク

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写真3:アフィバンクには多数のムギクビレアブラムシを寄生させてあります。

このアフィバンクが発売されてから、イチゴのアブラムシ防除は安定した効果を発揮できるようになりました。
それまではコレマンアブラバチ(商品名:アフィパール)の導入時期の見極めが難しく、アブラムシがまったくいない時期に導入してアフィパールを無駄にしてしまったり、逆にアブラムシが多発した時期の導入で効果が充分に見られなかったりする事例が比較的多かったのですが、アフィバンクを使うことでいわゆる「ゼロ放飼」(害虫ゼロでの天敵の導入)が可能になったわけです。

アブラムシは羽根を持った有翅アブラムシが飛来することで発生が始まります。(写真4)
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写真4:イチゴの花に寄生する有翅アブラムシ

これが増えるとコロニーを形成し多発状態となります。(写真5)aphis03.jpg
写真5:イチゴの茎に寄生するアブラムシ

このように多発してからでは、天敵がどんなに活動してもなかなか抑えきれるものではありません。アブラムシに寄生して体内にコレマンアブラバチが蛹を作る状態になることはなりますが、生きていてイチゴの株に被害を及ぼすアブラムシも多数寄生する状態となります。(写真6)

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写真6:天敵は寄生しているがアブラムシの被害を抑え切れていない状態

アブラムシの発生前にアフィバンクとアフィパールを導入すれば、ムギで増殖したアフィパールが圃場の隅々までアブラムシを探索し寄生。常にアブラムシを低密度で抑えることができます。(写真7)
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写真7:アフィパールに寄生されたマミー(蛹)

このマミーからも次世代のアフィパールが羽化し、最初に導入したアフィパールの何倍にも増殖してイチゴの作付期間中アブラムシを抑えてくれます。


次はハダニ防除編です。


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アブラムシ編から続く

ゼロ放飼(害虫ゼロでの天敵の導入)によりアブラムシ防除の効果が安定したことは前述の通りですが、ハダニ防除ほどゼロ放飼が効果を高めた技術はないと考えています。

日本の施設栽培における初めての天敵農薬(昆虫も日本の法律の下では「農薬」扱いなのです)である「チリカブリダニ」(商品名:スパイデックス)が登録されたのが1995年です。
それから「ミヤコカブリダニ」(商品名:スパイカルEX)の登場まで10年ほど要するのですが、この時期は天敵利用が誰にでもできる技術でなかったことは事実です。

「チリカブリダニ」を導入するにあたって重要視されたことの一つに「害虫密度」があります。
生物防除は「数対数」という宿命がありますので、害虫が増殖した後で天敵を放飼(圃場に放つこと)をしても防除効果を上げるには長い時間がかかり、効果を実感するに至りませんでした。
逆にハダニしか食べない「チリカブリダニ」を害虫ゼロの時期に放飼しても、いつの間にか天敵はいなくなり定着を確認できませんでした。

そこで天敵導入前にイチゴの株を何株も調査して、ハダニの寄生株率を調査したのです。
10アールに8000株ほど植わっているイチゴですが、時には数百株を調査してそのうち何株にハダニが寄生しているかといった気の遠くなるような作業が必要でした。
当時言われていたのが「寄生株率10%」という数値でしたが、夕方暗くなるまでできるだけ多くの株を調査しても全ての株を網羅できるものではありません。
調査し切れていない場所のハダニ密度が高い場合には、そこが発生源となって多発してしまう事例も見受けられました。

初期のチリカブリダニでうまく防除できる確立が低かったのは、このような理由からだったと考えています。

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写真:ハダニを捕食するスパイデックス(チリカブリダニ)

ハダニ防除編(ミヤコカブリダニ登場)へ続く
ハダニ編(チリカブリダニ)から続く

イチゴにおけるハダニの生物防除はミヤコカブリダニ(商品名:スパイカル)の登場で効果の安定がなされました。

ハダニしか捕食しないので耐飢餓性に乏しいチリカブリダニに対し、ハダニのみならずコナダニなどの土の中にいる微小昆虫に加え、ホコリダニの卵や花粉までも食べて生き延びることができるミヤコカブリダニは圃場への定着性がとてもよかったのです。
また温度条件にも比較的強く、厳寒期や春先の高温期にも元気に活躍してくれています。

チリカブリダニは圃場での定着を確認するのに苦労しましたが、ミヤコカブリダニはハダニが寄生して上から見て葉緑素が抜けているような葉上で比較的簡単に見つけることができます。
ハダニが発生している場所ではかなりの頻度でミヤコカブリダニも定着が確認でき、「抑えてくれてるなぁ」的な防除効果を実感できるのもこの天敵の良いところでしょう。

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写真:ハダニを捕食中

ミヤコカブリダニの登場により、天敵導入の時期を生産者の皆さんが自分で決められるようになったわけです。
つまりチリカブリダニの時代は基本的にハダニの発生状況を確認してからの導入でしたが、ミヤコカブリダニであれば薬剤散布をしてハダニ密度を限りなく低くした後の導入ということで、スケジュール放飼ができるようになったということです。。
そんなわけで2010年の年末時点では、イチゴの定植が終わり土耕栽培の場合であれば、マルチをして施設にフィルムを展張した後に薬散してからミヤコの導入という流れができています。
ハウスにフィルムを張りっぱなしの高設栽培であれば、定植後にハダニの防除をしてからミヤコの導入ということで、大変にスッキリした流れで天敵の導入ができるようになりました。
また秋にはミヤコ→春先にチリ、という体系や、ハダニの発生が春先になっても見受けられないときはミヤコ→ミヤコの体系を選ぶこともでき、チリカブリダニとミヤコカブリダニの特性を活かした天敵によるハダニの防除にバリエーションを持てるようになりました。
このバリエーションを選択することで、より効果的にハダニを防除できるようになったことは言うまでもありません。

アザミウマ防除編へ続く
ハダニ防除編(ミヤコカブリダニの時代)から続く

2010年現在、イチゴのIPMで最も難防除害虫なのがアザミウマ類(スリップス類)でしょう。
防除が困難な理由として挙げられることは、
  1. 効果的な薬剤が少ないこと
  2. アザミウマ類は増殖が早いこと
  3. 増殖量が多く、物理的防除では限界があること
  4. 有効な天敵が少ないこと
  5. 移動距離が比較的長いこと
など、決め手となる防除方法がないことが大きな原因かと考えます。

しかしながら難防除であればあるほどIPMの手法は効果的といえるでしょう。
なぜなら数ある防除方法を自由に組み合わせることができるからです。

1.まずハウス内にアザミウマを入れないこと
→害虫は雑草を伝わって圃場に侵入します。
 →ハウス周りの除草を徹底することや、シルバーマルチ、グランドシートなどで土を被服することで、アザミウマの侵入は確実に減ります。

また、シルバーマルチの外側にネットでついたてを作るのも効果的な方法です。

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この方法は、アザミウマがネットの目をすり抜けて直接ハウス内には入れない習性を利用したものです。
比較的粗い目合い(1mm程度)のネットであっても、アザミウマは一度ネットに引っかかります。
その先(ハウス側)には白い乱反射シートが敷いてあり、これによりアザミウマが飛翔できなくなってハウス内に入らなくなる方法で、試験結果によれば0.6mm目合いのネットをハウスの開口部に直接張るよりも、アザミウマの侵入数が10分の1になったそうです。

防虫ネットの展張はもちろん効果的です。
以下にネットの目合いとそれにより侵入を阻止できる害虫を紹介します。

  目合い   害虫の種類        
2~4㎜以下   オオタバコガ、ヨトウガ類
1.0㎜以下   ヨトウムシ類
0.8㎜以下   アブラムシ類
0.5㎜以下   アザミウマ類
0.4㎜以下   コナジラミ類   
農林漁業金融公庫「技術の窓№1180」より

侵入させないもう一つの方法は粘着トラップでの捕殺です。
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開口部の外側に粘着トラップ(ホリバーロール)を直管パイプとパッカーで設置して、外からのアザミウマの侵入を防ぎます。
(この圃場の場合除草されていないのが片手落ちなのですが・・・)

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(写真はトマトの圃場ですが・・・)侵入したアザミウマを黄色や青の粘着トラップで捕まえてしまう方法も効果的です。
粘着トラップを防除目的に利用する場合、10a当り100~500枚程度を作物の10cm程度上に吊るします。

以上、まずはアザミウマを圃場に「入れない」いくつかの方法をご紹介しました。

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